フラッシュバック

昔の失敗を思い出しては後悔する。
ここ半年で数が増えた。
思い出せてないこともあるかもしれない。
迷惑かけた相手は忘れているかもしれない。
そう思うと何故だか後悔に拍車がかかる。

独り言が増えて、酩酊することも多い。
一時、音楽とか漫画とか好きなものに触れて気にならないこともあるが、やっぱりそれはぶり返してくる。
毎日ネガティブだけで暮らしているつもりはないが、どうしたって繰り返し思ってしまう。

先日ライブを観に行った。
超満員。ちょっと動くと軽く人の足を踏んづけてしまうぐらいの。
目の前には若い女の子と30過ぎぐらい?の男が立っていた。
「すみません、このライブって結構盛り上がるやつですか?」
女の子が男に話しかけた。
2人は知り合いではなかった。女の子はあとから一人で入場してきた。
盗み聞きをしたかった訳ではないが、距離が近いのでどうしても会話が聞こえる。
「いやぁ、そうですね、ううん、そうでもないような…」
男は言葉を濁していた。
ベテランロックバンドのライブだ。激しめな曲もある。踊れー!と客を煽るバンドではないが、揉みくちゃの可能性もある。
「私、最近このバンド知って。でもこういうライブハウスとか来たことなくて」
「そうなんですか。どちらから来られたんですか」
話が続く。
男の雰囲気的に、ただの先入観で申し訳ないが、こういう場所で若い知らない女の子から話しかけられるのは初めてに見えた。少し浮足立っているのが背中越しに伝わってきた。
話が盛り上がっている。
僕の隣に立っている別の男性もそわそわしている。僕と同じように、目の前の会話が気になっているようだ。というかその周辺全員がそわそわしていた。

男はこのライブのバンドTシャツを着ていた。
そこそこコアなファンっぽかった。
対して女の子はこのバンドを最近知ったと言う。どういうバンドですかと聞いてくる。
そりゃあどんどん話したくなるのが、男心、マニア心というもんですわ。
本番直前、最終的に男は女の子に対してタメ口になっていた。最初はしっかり敬語だったのに。盛り上がったのだろう。

本番が始まった。
会話も終わった。
僕はライブ途中でトイレに行き、最初の場所に戻れなくなったので、その2人がそれ以上会話したのか分からないまま帰った。

あの2人はライブが終わったあと会話をしたのか。
ライブどうだった?
あの曲良かったね。
もしかしたらそのまま食事でもどう?なんて。
しっぽり夜の街に消えていったかもしれない。

いやもしかしたら男が誘って、しかし女の子は断ったかもしれない。
男は話したいが、女の子はそうでもなかったらどうしよう。
そうなれば、去る女の子の背中を見ながら男はきっと後悔する。
浮かれていたんだな、俺は、と。

電車に乗りながらそんなことを考えていた。
もしそうなってしまっていたら、男はバンドの曲を聴くたび、そのことを思い出して恥ずかしい気持ちになるかもしれない。
僕が後悔を思い出すように。
僕らは仲間だ。みんな仲間だ。

僕はそのあと1人で居酒屋に入り、隣のバツイチ同士で飲みに来たという男女と仲良くなって色んな話をした。
そして帰ったあと、なにか変なことを2人に言わなかった考え込んで、妙に眠れなかった。

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